爪先からムスク、指先からフィトンチッド
か弱い少女のような環の潤んだ瞳から涼介は目を逸らすことが出来ない。
「もし……もしもだよ? 君が僕を愛すると言うなら――別だが」
「愛する……」
「ああ、男として、そうだな。ジャンよりも、俺を選べるなら」
「ジャンよりも……」
「王より王子を選ぶなら、俺は君の皇帝になってみせるよ」
涼介は知らず知らずに環のことで頭がいっぱいになり、口説いている。
「そろそろ、帰るよ。従業員に変に思われてもいけないから」
「うん。ありがとう」
「今度、うちに招待するよ。おやすみ。プリンセス」
柔らかくなった表情の環を一目見て、涼介は部屋を立ち去った。
何事もなかったように冷静さとミントの清涼な香りを身に纏い、ホテルの従業員たちに笑顔を振りまきながら涼介はホテルの外へ出た。
薫樹の前では毅然と女王様然とした環はTAMAKIの姿なのだろう。薫樹と出会った時にはもうスーパーモデルとして活躍していた頃であったため環の素顔は薫樹ですら知りえなかったようだ。恐らく、ジャンとマリーが環の事を想い、立ち振る舞いやコミュニケーションの取り方なども教え込んだのだろう。実際の彼女は鎧をつけた王女のようだ。本心を率直に告げることはない。思わせぶりと曖昧さによって虚像を演じている。本来の彼女が見えるのは外見では足先だけだ。
涼介は自分にも薫樹のように得るべき相手、失わざる相手が見つかったのだと実感する。
「今度会ったら絶対に抱こう」
心をきめて環を想った。
14 パフューム『KOMACHI=小町』の製作
小野小町が愛したという芍薬(ピオニー)の甘く華やかな香りをメインの香りにと最初に考えたが、小野小町自身のイメージとは違うと薫樹は感じる。
しかも外国人が小野小町をどれだけ知っているかというと、よほどの日本文化通でないといないのではないかと思う。恐らく『芸者』のほうが知名度が高いだろう。
「うーん。海外向けのジャパンか」
純粋に小野小町のイメージで調香すると、おそらく海外進出は無理だろう。
気分転換に研究室から出て、屋上に向かった。
初めて芳香と会った場所で、彼女の足の匂いを思い出す。
「うーむ。環よりも芳香の方が小町という雰囲気なのだがな」
せまっ苦しく、簡素な水道があるだけの寂しい屋上で薫樹はポケットから環の名刺を取り出し匂いを嗅ぐ。
「外国人が思う東洋とはやはりこのジャンの作った香りの方だろうなあ」
「もし……もしもだよ? 君が僕を愛すると言うなら――別だが」
「愛する……」
「ああ、男として、そうだな。ジャンよりも、俺を選べるなら」
「ジャンよりも……」
「王より王子を選ぶなら、俺は君の皇帝になってみせるよ」
涼介は知らず知らずに環のことで頭がいっぱいになり、口説いている。
「そろそろ、帰るよ。従業員に変に思われてもいけないから」
「うん。ありがとう」
「今度、うちに招待するよ。おやすみ。プリンセス」
柔らかくなった表情の環を一目見て、涼介は部屋を立ち去った。
何事もなかったように冷静さとミントの清涼な香りを身に纏い、ホテルの従業員たちに笑顔を振りまきながら涼介はホテルの外へ出た。
薫樹の前では毅然と女王様然とした環はTAMAKIの姿なのだろう。薫樹と出会った時にはもうスーパーモデルとして活躍していた頃であったため環の素顔は薫樹ですら知りえなかったようだ。恐らく、ジャンとマリーが環の事を想い、立ち振る舞いやコミュニケーションの取り方なども教え込んだのだろう。実際の彼女は鎧をつけた王女のようだ。本心を率直に告げることはない。思わせぶりと曖昧さによって虚像を演じている。本来の彼女が見えるのは外見では足先だけだ。
涼介は自分にも薫樹のように得るべき相手、失わざる相手が見つかったのだと実感する。
「今度会ったら絶対に抱こう」
心をきめて環を想った。
14 パフューム『KOMACHI=小町』の製作
小野小町が愛したという芍薬(ピオニー)の甘く華やかな香りをメインの香りにと最初に考えたが、小野小町自身のイメージとは違うと薫樹は感じる。
しかも外国人が小野小町をどれだけ知っているかというと、よほどの日本文化通でないといないのではないかと思う。恐らく『芸者』のほうが知名度が高いだろう。
「うーん。海外向けのジャパンか」
純粋に小野小町のイメージで調香すると、おそらく海外進出は無理だろう。
気分転換に研究室から出て、屋上に向かった。
初めて芳香と会った場所で、彼女の足の匂いを思い出す。
「うーむ。環よりも芳香の方が小町という雰囲気なのだがな」
せまっ苦しく、簡素な水道があるだけの寂しい屋上で薫樹はポケットから環の名刺を取り出し匂いを嗅ぐ。
「外国人が思う東洋とはやはりこのジャンの作った香りの方だろうなあ」