爪先からムスク、指先からフィトンチッド
「公園か――ああ。このマンションの裏にあったな。水道があっただろうか」
夜も8時を回ると公園には人気もなく静かに遊具が佇んでいるだけだ。芳香は目ざとく水飲み場を見つける。
「よかった」
バッグからフットケアのセットを取り出し、スニーカーを脱ごうとすると薫樹が側に居ることにハッとし「あ、あの、そのベンチにでも座っててもらえませんか」と木のベンチを指さした。
「ん?そう?」
大人しく薫樹は3メートルほど離れたベンチに向かう。芳香はほっとして足を洗い始めた。
洗い終えた後、またマンションの薫樹の部屋に戻り、今度こそ上がる。公園の隣のコンビニで購入した使い捨てのルームシューズを履く芳香に薫樹は苦労を感じた。
「そこへ座って。今お茶でも入れるよ」
「あ、はい」
LDKには二人掛けのダイニングテーブルしかなく広いが生活感のない空間だ。
「ティーバッグだけど」
そう言いながら薫樹はハーブティを差し出す。
「ありがとうございます」
しばらく無言で草っぽいハーブティーを啜っていると薫樹が口を開く。
「次のうちの新作なんだが、ボディシートを制作してるんだ。それで君に協力してもらいたいんだ」
「協力? 私が?」
「うん。土曜の午前中だけでいいから、2ヶ月いや1ヶ月半ほど。勿論、謝礼はするし、足の消臭にも力になれると思う」
「は、はあ……。私は一体何をすればいいんでしょうか」
「別に寝っ転がっててくれたらいいよ。香料や薬品を試させてほしい、その足で」
「あ、足にですかあ……」
今回のボディシートのコンセプトは使う人によって、まさに香りが変わるものを狙っているらしい。さっき芳香が薫樹に対してそのままの香水の香りを纏えることを羨ましいと言ったが薫樹の感性としてはそこを覆したいらしく、さらにはその人間が持つ香りを高めたいと考えているようだ。(意識高い系じゃなくて香り高い系かあ……)
「君はその匂いが悪臭だと思っているだろう?」
「もちろんです」
「そんなことはないんだ。寧ろ麝香に近いよ。本来とてもセクシーな香りになるはずなんだが濃度が高すぎるのと靴の中の条件が悪いのかもしれない」
「は、はあ」
「ちょっと潔癖な時代だから難しいかもしれないけど、その香りは薫の君や楊貴妃の類だよ」
「……」
夜も8時を回ると公園には人気もなく静かに遊具が佇んでいるだけだ。芳香は目ざとく水飲み場を見つける。
「よかった」
バッグからフットケアのセットを取り出し、スニーカーを脱ごうとすると薫樹が側に居ることにハッとし「あ、あの、そのベンチにでも座っててもらえませんか」と木のベンチを指さした。
「ん?そう?」
大人しく薫樹は3メートルほど離れたベンチに向かう。芳香はほっとして足を洗い始めた。
洗い終えた後、またマンションの薫樹の部屋に戻り、今度こそ上がる。公園の隣のコンビニで購入した使い捨てのルームシューズを履く芳香に薫樹は苦労を感じた。
「そこへ座って。今お茶でも入れるよ」
「あ、はい」
LDKには二人掛けのダイニングテーブルしかなく広いが生活感のない空間だ。
「ティーバッグだけど」
そう言いながら薫樹はハーブティを差し出す。
「ありがとうございます」
しばらく無言で草っぽいハーブティーを啜っていると薫樹が口を開く。
「次のうちの新作なんだが、ボディシートを制作してるんだ。それで君に協力してもらいたいんだ」
「協力? 私が?」
「うん。土曜の午前中だけでいいから、2ヶ月いや1ヶ月半ほど。勿論、謝礼はするし、足の消臭にも力になれると思う」
「は、はあ……。私は一体何をすればいいんでしょうか」
「別に寝っ転がっててくれたらいいよ。香料や薬品を試させてほしい、その足で」
「あ、足にですかあ……」
今回のボディシートのコンセプトは使う人によって、まさに香りが変わるものを狙っているらしい。さっき芳香が薫樹に対してそのままの香水の香りを纏えることを羨ましいと言ったが薫樹の感性としてはそこを覆したいらしく、さらにはその人間が持つ香りを高めたいと考えているようだ。(意識高い系じゃなくて香り高い系かあ……)
「君はその匂いが悪臭だと思っているだろう?」
「もちろんです」
「そんなことはないんだ。寧ろ麝香に近いよ。本来とてもセクシーな香りになるはずなんだが濃度が高すぎるのと靴の中の条件が悪いのかもしれない」
「は、はあ」
「ちょっと潔癖な時代だから難しいかもしれないけど、その香りは薫の君や楊貴妃の類だよ」
「……」