爪先からムスク、指先からフィトンチッド
生まれて初めて自分の足の匂いに対する称賛ともいえる言動に芳香は戸惑いを隠せない。また調香師である薫樹の香りに対する感覚が一般人とは違うのだろうと思うと気分は複雑だ。
「つまりその匂いを抑えて殺すんじゃなくて活かしたいんだ。駄目かな?」
「い、いえ。ダメじゃないです」
断る理由などなかった。もしかしたら匂いが改善されるかもしれない。更には『いい匂い』になるかもしれないのだ。こうして芳香は毎週土曜日に検体として薫樹のマンションに訪れることなった。
9 検体提供
最初の約束の日がやってくる。
まず、芳香はバスルームで足を洗い薫樹の実験室ともいえる部屋に通された。3LDKのマンションはベッドルームと書斎、実験室となっている。まるでオフィスだ。趣味らしいものは何もないシンプルな部屋はやはり普通の人ではないのだと感じさせる。
「その簡易ベッドに横たわってくれるかな。寝ててもいいよ」
「あ、あの、本とか読んでもいいですか」
「ああ、いいよ。暇だろうからね。音は気が散るから、それ以外なら適当にしてくれて構わない」
部屋にはたくさんの試験管、茶色の小瓶、ピンセットや顕微鏡、試験紙などがあり、ちょっとした理科室だ。(家に実験室があるなんてほんと凄すぎ)
薫樹の黙々と作業を始める姿を横目で眺める。白衣はきちんとプレスされており、その下から覗くグリーンのシャツの色合わせが雅な平安貴族の衣装のようにも見える。硬質な美しさが薫樹のクールさをより引き立たせている。動作は静かで無駄がなく衣擦れの音は優美だ。(烏帽子とか似合いそうだなあ……)
じろじろ見ては失礼だと思い、芳香はうつ伏せになって小説を読みながら時間をつぶすことにする。たまに綿棒や試験紙などが足の裏に触るのを感じた。カチャカチャと物音がし、様々な香料がほんのり淡く漂うこの部屋は芳香にとってとてもくつろげる空間だった。思わず寝てしまい、昼のサイレンでハッと目を覚ます。
「あ、やば、寝ちゃってた」
「ん?起きたのか。今日はこれで終わりにしよう。なかなかいい結果が得られたよ。今、寿司が届くからそれを食べて帰るといい」
「え、あ、はい、ありがとうございます」
ベッドから起き出してまた足を洗うためにバスルームを借りたが、不思議なことにいつもより匂いがきつくない。寝ている間に消毒でもされたのかなと思いながら足を洗った。
「つまりその匂いを抑えて殺すんじゃなくて活かしたいんだ。駄目かな?」
「い、いえ。ダメじゃないです」
断る理由などなかった。もしかしたら匂いが改善されるかもしれない。更には『いい匂い』になるかもしれないのだ。こうして芳香は毎週土曜日に検体として薫樹のマンションに訪れることなった。
9 検体提供
最初の約束の日がやってくる。
まず、芳香はバスルームで足を洗い薫樹の実験室ともいえる部屋に通された。3LDKのマンションはベッドルームと書斎、実験室となっている。まるでオフィスだ。趣味らしいものは何もないシンプルな部屋はやはり普通の人ではないのだと感じさせる。
「その簡易ベッドに横たわってくれるかな。寝ててもいいよ」
「あ、あの、本とか読んでもいいですか」
「ああ、いいよ。暇だろうからね。音は気が散るから、それ以外なら適当にしてくれて構わない」
部屋にはたくさんの試験管、茶色の小瓶、ピンセットや顕微鏡、試験紙などがあり、ちょっとした理科室だ。(家に実験室があるなんてほんと凄すぎ)
薫樹の黙々と作業を始める姿を横目で眺める。白衣はきちんとプレスされており、その下から覗くグリーンのシャツの色合わせが雅な平安貴族の衣装のようにも見える。硬質な美しさが薫樹のクールさをより引き立たせている。動作は静かで無駄がなく衣擦れの音は優美だ。(烏帽子とか似合いそうだなあ……)
じろじろ見ては失礼だと思い、芳香はうつ伏せになって小説を読みながら時間をつぶすことにする。たまに綿棒や試験紙などが足の裏に触るのを感じた。カチャカチャと物音がし、様々な香料がほんのり淡く漂うこの部屋は芳香にとってとてもくつろげる空間だった。思わず寝てしまい、昼のサイレンでハッと目を覚ます。
「あ、やば、寝ちゃってた」
「ん?起きたのか。今日はこれで終わりにしよう。なかなかいい結果が得られたよ。今、寿司が届くからそれを食べて帰るといい」
「え、あ、はい、ありがとうございます」
ベッドから起き出してまた足を洗うためにバスルームを借りたが、不思議なことにいつもより匂いがきつくない。寝ている間に消毒でもされたのかなと思いながら足を洗った。