婚約者を奪われ追放された魔女は皇帝の溺愛演技に翻弄されてます!
「——おい、聞いてるか?」
たっぷりと過去を回想してみてもこの状況が変わることはなく、悪魔皇帝の声で目の前の現実に意識を戻した。
「えっ! あ、ごめんなさい。ちょっと考え事をしてたわ」
「……お前が解呪の魔女だな?」
悪魔皇帝の地の底を這うような声に「ヒッ」っと叫びそうになるのを堪えた。
怒っていらっしゃる。悪魔皇帝が腹の底から怒っていらっしゃる。仮面から覗く海のような青い瞳が、私を射殺さんばかりに睨みつけている。聞くまでもなく、私が作った呪いの仮面のせいだ。
でも魔女は身分に縛られない特殊な存在だ。だから皇帝が相手だとしても堂々としていればいい。
そのはずなのに、悪魔皇帝の威圧が凄くて若干足が震えている。
「そ、そうだけど。その仮面の呪いを解いてほしいの?」
「理解が早くて助かる。できるか?」
ええ、製作者は私ですから。
でもそのおかげで威圧的な空気はなくなり、少し息がしやすくなった。
「その仮面の呪いは真実の愛に触れれば解けるものよ。皇帝ならそんな相手すぐ見つけられるでしょう?」
「いや……俺に触れた途端に痛みでのたうち回って、全員逃げ出した」
「え、嘘。まさか、ひとりくらいはいたでしょう?」