婚約者を奪われ追放された魔女は皇帝の溺愛演技に翻弄されてます!
「それならお前が呪いの仮面の製造者として責任を取れ」
「せ、責任って……まさか命をもって償えなんて言わないわよね?」
恐る恐る聞いてみる。もし首を刎ねるとか牢屋に入れるとか、物騒なことを言われたら死の物狂いで逃げ出さないといけない。腕輪さえ外してしまえばどうにでもなる。……外せればだけど。
「違う。俺には後継者が必要だと言ったろう。だからお前が妻になって俺の子を産んでくれ」
「————————はい?」
すっかり逃げる算段を立てていたので、予想外の話に疑問で返した。目の前にいる悪魔皇帝はなんと言った?
責任取って、妻になって子を産めと言った? 誰が? 誰の?
「よし、了承したな。イリアス、婚姻宣誓書の準備をしろ」
「承知しました。ではこちらに陛下のサインをお願いいたします」
「ああ」
サラサラと迷いなくペンを走らせる悪魔皇帝が、ものの三秒ほどでサインを終える。イリアスと呼ばれた側近と思われる若い男が、悪魔皇帝から分厚い羊皮紙を受け取り爽やかな笑顔で目の前にやって来た。
「ちょっと待ってよ! 今のは了承じゃなくて、疑問の——」
「どうぞ、サインをお願いいたします」
問答無用で婚姻宣誓書と書かれた羊皮紙を私に押し付けてくる。その笑顔の圧が凄くて、思わず受け取ってしまった。いくら魔女になってものを言えるようになったからといって、さすがに皇帝やその側近たちを相手にして、この空気に逆らうのは難しい。
手にしてわかったけど、この婚姻宣誓書には魔力が込められている。サインしたらなにかしらの縛りが発生するようだ。これは素直に頷いたらいけない気がする。