婚約者を奪われ追放された魔女は皇帝の溺愛演技に翻弄されてます!
「なによそれ、そんなの無理でしょ!!」
「セシルに笑顔の花を咲かせるのは、俺の役目だ」
少しだけ深い海のような青い瞳を細めて、レイがキザったらしい言葉を吐いた。
もういいから。それ以上おかしなことを言わないでほしい。この結婚は契約結婚なのだから、気持ちなんて微塵もこもってないはずなんだから。
それなのに、そんなに熱のこもった視線を向けられたら、演技だって忘れてしまいたくなる。
「は? なに言ってんの?」
「セシルは俺から見たら美しい花のようなものだ」
「いやいや、そんな訳ないでしょ!」
だめだ、レイがとまらない。変な汗が吹き出して、逃げ出したいのにレイに見つめられて動けない。
「ああ、すまない。花では不足だったな。セシルは俺の女神だ」
「ひえっ……もう勘弁してよ……」
だめだ、レイの演技が上手すぎて思わずその気になってしまう。金髪碧眼の男は信用ならないのだ。惑わされてはいけない。
頬に集まる熱を手で仰いで冷ましながら、己に喝を入れて気持ちを無理やり話題を変えた。
「それより! 薬草が思いのほか早く育ったから、回復薬を作ってあげる」
「回復薬? セシルが、俺のために?」
「そうよ、文句言うなら他の人にあげるからね」
「いや、文句などない。そうか……では早く部屋に戻ろう」
すっかり凍てつく空気が霧散したレイは、私が摘んだ薬草の入ったカゴを持ってさっさと歩きはじめた。ノーマンを振り返ると、驚いた顔で私たちを見送っていた。
わかるわ、私もレイに振り回されてるもの。次に会ったときはレイの愚痴も聞いてもらえそうだと、薬草園を後にした。