太陽がくれた初恋~溺愛するから、覚悟して?~
第二章 風薫る季節は新しい何かの予感

気になるあの人/side麻依

お昼を過ぎて眠気が忍び寄る、5月の午後2時。
ソレイユのフロント奥でプチ女子会という名の休憩タイムが始まろうとしていた。


「ねぇねぇ、ひよりん、可愛いお菓子を買ってきたの、見て見て」

「え、なんですかぁ?…わぁ…コレ、練り切りって言うんでしたっけ」

「そう、ちょっとお店寄ったら可愛くて買っちゃった」

「ほんとにいっぱいありますね!えーっと…これは藤の花?こっちはバラっぽい!あ、鯉のぼりは3色あって可愛い!こっちのは葉っぱがクルンてしてて…これはブルーがすごい爽やか…もうどれも素敵で全部美味しそう!ほんとにショーケースを見てたら全部買っちゃいそうですねぇ」

ひよりんが目をキラキラさせて愛らしい芸術作品たちを眺めている。

「2人じゃ食べきれないから、施行担当さん達も呼んでお茶しようか。今日はお通夜もあるし、早目のティータイムってことで」

女子会じゃなくなっちゃうけど、大勢でのお茶会も楽しいもんね。

「いいですね!…高見さん、いるといいな」

「じゃあちょっと声かけてくるね、そろそろ会場の設営も一段落ついてると思うし。あっ、悪いけどお茶の準備だけお願いできる?」

「了解ですっ」

かわいく敬礼するひよりんに微笑み返し、お客のいないロビーを小走りで横切りホールへ向かった。



佐伯新支配人になって早1ヶ月。

支配人は私の心配していた様な孤立はしていない。

その理由はただ一つ。
ソレイユのスタッフみんなが〝うるさいくらい〞に声をかけているから。

そのうるささといったら、館内でその場面を見かけると、救いの手を差しのべたくなるほど。

仕事についてはともかく、プライベートについても、遠慮というものを知らないのか!?と思うくらいガンガン話しかけるスタッフに、支配人はやや困りながらも丁寧に応対している。
…プライベートに関しては具体的なことはほとんど濁しているけども。

しかし、ソレイユのスタッフもただ物珍しさだけで話しかけているわけではない。
支配人の仕事やスタッフに対する姿勢を見て好感を持っているから、話しかけているのだと思う。

ここのスタッフはああ見えて職人気質というか、実は仕事に対する姿勢に非常に厳しい。
だから、真面目で的確に仕事をこなしていく支配人にみんなが惹かれていくのは最もだと思う。

かくいう私も支配人の仕事ぶりと頑張りは尊敬している。
…まだ1ヵ月しか見ていなくても。

施行担当もさることながら、支配人として、館内の業務も、社長や支社長とのやり取りもしっかりこなしており、すっかり支配人が板についている様だ。

…だから、彼に対する私の中のイメージはすっかり変わっていった。

福田くんのおかげで元々があまり良くないイメージだったせいもあるが、もっと誰に対しても冷めている人だと思っていた。

でも彼はちゃんと相手を見て答える人だった。


しかし…毎日あんな調子で疲れてないかな…
最近は、当初とはある意味逆の心配をするようになっていた。

スタッフの中でも特に高見くんは支配人に懐いていて、端から見るとクールな兄にヤンチャな弟が纏わりついているみたいで面白い。
そして、それを優しく見守る上原さんが長男の様で、それはまさにソレイユにおけるイケメン3兄弟。

まだ支配人の心の内まではわからないけど、ひとまずは馴染んで頂けているようで何より。ふふっ。
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