本能のまま、冷徹ドクターは新妻を愛し尽くす
真琴が意地悪な上級生に服を汚されて泣いて帰った時は、その子の家に怒鳴り込みに行って誤って門を壊してしまい、両親が謝罪する羽目になった。

(お兄ちゃんは私のことが大好きなんだよね。私がもうすぐ結婚するから寂しいという話も、私を五代目にするために怠けているという話も、半分くらいは本当なのかも)

「こっち側につみれが入っているよ。器貸して。よそってあげる」

兄に優しくしてしまう真琴はやはりお人好しだ。

「マコ、もし迷っているなら結婚やめてもいいんだからな」

ボソッと真顔で言った兄につみれを入れた小鉢を返しながら、真琴は目を瞬かせた。

「やめないよ。守也くん、いい人だもの」

薬剤師として真面目に働いている彼に兄に対するような不満を抱いたことはなく、三年の交際で性格が合うのもわかっている。

なにを迷えと言うのだろうという気持ちで左手の薬指を見つめた真琴は、そこに輝く小さな幸せの予感に頬を染めた。



それから十日が過ぎた夜。

スニーカーに白いパンツと薄手のニット、その上にカジュアルなスプリングコートを羽織った真琴は、自宅近くの駅前通りを歩いている。
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