本能のまま、冷徹ドクターは新妻を愛し尽くす
兄も女性に間違われそうな名前であるのに不満はないようで、真琴の名前と身長のコンプレックスを軽く捉えてからかってくる。

(子供の頃なら喧嘩になったけど......)

腹立たしさを力に変えた真琴は、クーラーボックスに加えて二段のフードテナーを持ち上げる。

「言い返さないのか」

弁当の蓋にラベル張りをしている兄は残念そうな顔をしているので、単に妹と口論を楽しみたかったのかもしれない。

すぐに怠けるところは呆れるが兄妹仲は決して悪くなく、一緒に映画を見に行ったり買い物に出かけたりする時がある。

しかし今は口喧嘩に付き合ってあげる余裕がないため、重たい荷物に歯を食いしばった真琴は急いで調理場を出た。



時刻は十一時三十分。

(間に合った)

お弁当の詰まったフードテナー六段を重ねた台車を押して、真琴は総合病院の自動ドアを潜った。

この徳明会(とくめいかい)病院は花福のある下町から車で七、八分ほどの場所にあり、電車と地下鉄の駅に近く、周囲は役所や商業ビル、マンションが建ち並んでいる。

病床数は五百ほどで、十一の病棟と救命救急センターを持ち、遠方からも高度医療を求めて患者が押し寄せる大病院だ。
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