本能のまま、冷徹ドクターは新妻を愛し尽くす
真琴はここで従業員に向けての訪問販売をしている。

院内には大きな食堂やコンビニもあるのだが、昼時は混雑がひどいため花福の弁当は重宝されていた。

いつものように一階の総合案内カウンター横で台車を止めてフードテナーを長机の上に置くと、すぐに白衣の医療者たちが集まってきた。

「カツとじ重、ちょうだい」

「五百八十円です。千円お預かりします」

「幕の内弁当ひとつ」

「六百五十円です。毎度ありがとうございます」

二十個ほどが一気に売れると、ひと呼吸おいてよく知っている人が買いにきた。

「マコ、お疲れ」

「香奈もお疲れさま。今日は買いに来られたんだね」

杉浦香奈(すぎうらかな)は循環器と脳神経、消化器の三つの外科を担当する外来看護師で、小中学校は一緒に登校した同い年の幼馴染だ。

大人になってからも時々飲みに行ったり遊びに出かけたりと、親しい付き合いをしている。

外来は午前中が特に忙しく、花福の弁当を買いに仕事を抜けてこられない日が多いのだが、今日は急いでいる様子もない。

肩下までの黒髪をひとつに結わえ、勝気な目に細縁フレームの眼鏡をかけた香奈が弁当を選びながら答える。
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