双子ママですが、別れたはずの御曹司に深愛で娶られました
 小さな声でそう言って、笑顔を作る。彼は目を丸くして私を見たのち、目尻を下げてボールペンを持ち換えた。それから、ものすごいスピードでメモを取り始める。きっと電話での内容を頭の中に留めていたのだろう。
 役に立てたようでよかったと満足していた矢先、今度は自分のスマートフォンが振動した。発信主を確認すると、会社から。
 私は慌ててペーパーナプキンに予備のペンを走らせて、男性の横にそっと置く。そして飲みかけのドリンクを片手に、バタバタとカフェをあとにした。

 数日後。仕事が終わったあとに私はあのカフェへやって来ていた。
「ホットココアをひとつ。それと、すみません。数日前にボールペンの落とし物はありませんでしたか? 紺色の軸の......ネーム入りなのですが」
「少々お待ちくださいませ」
 スタッフは一度レジカウンターを離れ、数分後に奥から戻って来た。
「こちらでしょうか?」
 そう言って差し出されたボールペンは紛れもなく、この間私が彼に貸したボールペンだった。
「そうです。ありがとうございます」
 私はそれを受け取り、定位置の胸ポケットにしまった。
 私は男性にボールペンを貸したあの日、ペーパーナプキンに【カフェのスタッフさんに預けておいてください】と書いていたのだ。
 無事にボールペンが戻って来た私は、ホットココアを手にカウンター席に座る。すると、ポンと肩に手を置かれた。
「よかった。また会えて」
「あっ」
 振り返るとそこに立っていたのは、さっき戻って来たボールペンを貸した男性だった。
 まさか会えると思っていなくて驚いていると、彼は少し息が上がったまま言う。
「あの時はありがとうございます。本当は直接お返ししたかったんですが......。無事にボールペンは受け取れましたか?」
「はい、さっきスタッフの方から受け取りました」
 彼は「そうですか。よかった」と顔を綻ばせる。
 もしかして息が上がってるのって、私がここにいるのを見かけて急いで店内に入って来たんじゃ......。だって彼、まだなにもオーダーしてないみたい。
 私は彼の手にドリンクがないことに気づいて、目を白黒させる。
「あの、今お時間ありますか?」
「え? ええ。仕事はもう終わってますし、今席に着いたばかりですので」
 私が答えると、彼ははにかんだ。
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