双子ママですが、別れたはずの御曹司に深愛で娶られました
2.過ぎ去りし時間
 私の地元は有名カフェチェーン店がない地域。そのため高校生の頃はそういうオシャレなお店に憧れていたのもあって、東京の大学へ進学したあとはカフェスタッフ募集の文字を見ては片っ端から応募していた。
 そうして大学二年から始めたアルバイトは、念願叶って全国でも有名なカフェのお店。そこでのアルバイトは大学卒業まで続けていた。
 その後、就職した先はカフェのアルバイトの経験を活かし、コーヒーやコーヒーマシンなど取り扱う輸入販売会社だった。
 入社して四年目。私もひとりで担当を任され始め、ますます気合いが入る日々で、私生活よりの仕事を優先していた。
 そんな四月のある日。私は外回りを終えたあとに、カフェに立ち寄った。
 ホットカフェラテをオーダーし、空いているカウンター席へ移動する。ずっと歩きっぱなしだったため、椅子に座ると足も気持ちも休まった。
 ひと口飲み物を含んだところで、近くの席からスマートフォンのバイブレーションが聞こえてきた。なにげなく一席空けた隣に座っていたお客さんを見る。すると、スーツ姿の男性が小声で電話に出ていた。
 彼も営業マンなのかな、などと勝手に親近感を持って再びホットカフェラテを口に運ぶ。カップをテーブルに戻すや否や、横からボールペンが転がってきた。どうやらさっき見てた彼が通話しながらメモを取る際にうっかりボールペンを落としたようだった。
 私はすぐに拾って、男性へボールペンを手渡した。彼はふわりと微笑んで会釈をし、受け取った。爽やかな笑顔もだけれど、彼の美形な顔立ちに無意識に見入っていた。
 さっきちらっと見たときにも、綺麗な横顔だなとは感じた。それが、こちらを見てさらににっこりとされたら、どこかの俳優さんと対面したくらいの衝撃を受けた。
 こんなにカッコイイ人なら、社内でもモテモテだろうな。
 そんな下世話なことまで勝手に想像していた時、彼の動きに違和感を抱いた。さっき渡したボールペンが書けなくなってしまったらしい。
 メモを取りたいのに急にインクが出ないって、相当焦るし困ると思う。
 私は差し出がましいのは承知で、自分の胸元に差していたボールペンを彼の手帳の上に置いた。
「よかったらどうぞ」
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