双子ママですが、別れたはずの御曹司に深愛で娶られました
「どういたしまして」
 だいぶ雄吾さんと一緒にいることに慣れてきたと思っていた。しかし、今みたいな相合傘とか、付き合いたての時期にはドキドキしてしまう。
 肩が触れそうで触れない距離を保って、緊張しながら歩く。彼の言った通り目的地まではすぐに着き、適正な距離になった途端胸を撫で下ろした。
 なんていうか、言葉遣いは徐々に敬語をなくしていって順調だと思っているのだけれど、それに反して最近は雄吾さんの近くにいるだけで心臓が早鐘を打ってうるさい。初めてのデート以上じゃないかなと感じることもあるくらい。
「ん? どうかした?」
 雄吾さんをこっそり見ていたのがバレて、笑顔を向けられた。瞬間、胸がきゅっと甘酸っぱく震えた。
「ううん。なんでも」
 首を横に振って必死に取り繕う。
 もうどうしよう。私ばっかりどんどん好きになっていっている。
「せっかくだから、文学館も回ってから行こうか。カフェは出口付近みたいだし」
「うん。あ、でも」
 私が途中で言葉を途切れさせたものだから、雄吾さんは気になる様子で両目を覗き込んでくる。
「いや。実は私、そこまで文学に詳しくなくて。その......無知で」
 勉強はそこそこ頑張ってきたつもりだけれど、文学書はあまり触れてこなかった。知識や経験はどれだけ積んでも無駄にはならないと痛感する。学生の頃は自分が目指す分野以外のことは必要ないと開き直っていた。でも、やっぱり得たものが多ければ多いほど人との交流や人生が豊かになるんだ。......なんて、今気づいても遅い。
 若かりし自分を顧みて反省していると、ふわっと左手を包まれた。
「すべての知識を持っている人なんて、世界でごく僅かだよ。正直言って、僕も舞楽はそこまで詳しいわけじゃないから一緒」
 こんな時も優しく完璧にフォローしてくれる雄吾さんが眩しい。本当、どうして私が彼の隣にいられるかが不思議になる。
「そうはいっても、多分私と比べると」
「知識をひけらかすために見学するわけでもないし。せっかくだからひとつでも興味をそそられるものを見つけよう、みたいな感覚はどう?」
「それ、全力で賛同します」
 右手をスッと上げて粛々と答える。雄吾さんは私の反応がツボだったのか、吹き出して笑い始めた。
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