双子ママですが、別れたはずの御曹司に深愛で娶られました
「昨日、違和感を覚えた。君が結婚指輪をしていないこと。だけどそれはいろんな事情からしていない可能性があるって考えた。......でも、昨日の女の子の持ち物には【古関詩穂】って書いていた」
「......っ!!」
 雄吾さんの鋭い指摘に今度は心臓が止まったかと思った。
 まさかあの僅かな時間でそこまで気づかれていたなんて!
「目敏いを通り越して気味悪がられるなって考えたよ。それでも、あの日行動できなかった後悔を引きずってきた僕は、もう同じ間違いはしないと誓った」
 開き直っている雄吾さんは、覚悟を決めたとでも言わんばかりの至極真剣な眼差しを向け続ける。
 情熱的なまなじりに、とっくに私は冷静さなど手離して混乱していた。
「縁談はどうしたんですか?」
「え?」
 無意識に口からついて出たことに気づき、慌てて顔を背ける。
 これ以上、彼と向き合っていたら押し込めていたものが出てきてしまう。そんなこと......今さらしたいわけじゃない。
「いえ、なんでもありません。すみません、私時間がないので。失礼します」
 私はどうにか理性で感情を抑え込み、雄吾さんを横切ってスタスタとその場を立ち去った。
 ヒールの音を響かせながら、小走りで駅へ急ぐ。バッグの肩紐を両手でぎゅうっと握りしめて、どうにか気持ちを保っていた。
 あの顔と声を前にすると容易く揺らぐ自分が怖い。
 私のほうこそまだ引きずっているっていうの? だってもう、私はあの時の私じゃない。穂貴や詩穂がいる。母親になったのに。
 改札にICカードをかざし、ホームへ移動する。電車を待ちながら呼吸を整えていると、ふとさっき雄吾さんが差し出してきた指輪ケースが頭に浮かんだ。
 ああいうものは、昨日の今日で準備できるものではないと思う。だとしたらあれは......まさか二年前に?
 そこまで考えて、首を横に振った。
 都合のいい解釈はしない。深く考えない。
 もしもそうだとしても、いまさらなにかが変わるわけじゃないでしょう?
 あの人は大手企業の御曹司で、私はただの会社員。
 彼に釣り合うものなど、私にはなにもないのだから。

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