双子ママですが、別れたはずの御曹司に深愛で娶られました
 いや、待って。たった五日だし、ここ最近ストレスとか疲れとかあってイレギュラーで遅れている可能性があるよね。まあ、いつもぴったり来るからびっくりはしたけれども。
 陳列された商品に視線を戻し、おもむろに隣の棚を見る。そこにあるのは妊娠検査薬。
 私はそこでまた数分悩んだ末に、手の届きやすいところにあった商品を掴んでカゴに放った。
 会計を済ませ、アパートに向かう足取りが心なしか速くなる。
 これは念のため。ずっとモヤモヤ抱えるくらいなら、一度使ってみて陰性ならすっきりするし。保険みたいなもの。
 なるべく冷静にと心がけ、自分に何度もそう言い聞かせる。しかし、その反面、不安要素がいくつも浮かぶ。
 ここ最近、調子が変なのももしかして......。
 アパートに戻るなり、私はエコバッグから妊娠検査薬を取り出した。いつもであれば、説明書類は入念に読み込むタイプなのに、今ばかりは気が急いて流し読みしかできない。
 とにかく白黒はっきりつけたくて、私はトイレへ駆け込んだ。そして、約三分後。
「嘘......」
 フライングだからかもしれないが、判定の枠に薄っすらと線が見える。薄いといっても、目視でわかるほどの濃さはあるから、きっと間違ってはいないはず。
 茫然と手にしたスティックを見続けていると、リビングからメッセージの着信音が聞こえた。ふらふらとリビングへ戻ってスマートフォンを確認する。
【具合大丈夫? 春奈が迷惑じゃないなら、今夜様子を見に行こうか?】
 彼からのメッセージを見た途端、決壊したように涙があふれた。
 もうわからない。
 想う心は変わらないのに、あれやこれやと現実ばかり引き合いに出して保守的な考えになっている。
 雄吾さんに懇意にしている取引先のご令嬢との縁談が持ち上がっていること。
 それを知った弟の尚吾さんが身代わりになって受けようとしていること。
 雄吾さんが縁談相手らしき女性を気にかけていること。
 私が、妊娠している可能性があること――。
 さっきの検査結果を言う......? だけどまだ確実ではない。それに、仮にそうであったとして、雄吾さんは受け止めてくれると思っている。
 ただ、彼の周りの人はどう? 樫山果乃子さんとの縁談が白紙になったなら、彼の会社やご家族にもなにかしら迷惑がかかるはず。それに、尚吾さんにどんな顔をして挨拶すればいいの。言ってみれば私の存在のせいで、事務的な結婚をする羽目になったうえ、私が身ごもっているとでもなれば。絶対に心象が悪い。
 当然、そういう感情は尚吾さんだけでなく、ご家族から向けられる。
 雄吾さんはご家族と円満なのだと思うし、仲違いするのをわかっていてまで、私は彼に手を伸ばそうと思えない。
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