秘め事は社長室で
本当は同僚じゃなくて上司だけど。なんなら社長だけど。
でもそこまで説明する必要は無いし、むしろ後が怖いし、社長には悪いけど今だけは同僚になってもらおう。
「同じ部署だから帰りが被るだけ。ほんとにそれだけだから」
「ただの同僚の距離じゃない」
「どこが?」
心の底からの疑問が出てしまった。
むしろどこをどう切り取っても親密な関係には見えなかったでしょうよ。車に乗り込むところを見られてたならまだしも、と内心呆れたところで声が重なった。
「ただの同僚を駅まで送るわけない」
……なるほど。
社長の車は、関係者以外立ち入り禁止の地下駐車場に置かれているから、見られるはずないとタカをくくっていたけど、駅で降りるところを見られていたらしい。
「向こうが車で帰るついでに送ってくれてるだけだから」
というかなんで、こんな言い訳みたいなことをしなきゃならないのか。付き合ってるわけでも、浮気をしているわけでも無いのに。
「健、とにかく離して。あんまり酷いなら警察呼ぶ。それくらいのことしてるって、ちゃんと理解したほうがいいよ」
そう言って掴まれた腕をやや強く引いて振りほどく。
健は何も言わなかった。でもこれ以上話してもきっと埒が明かない。
「とにかく、もう私のことは忘れてね。家にも職場にも、来ないで」
最後にそう念押しして、私は背中を向けた。
本当は走って帰りたかったけど、ぐっと堪えて歩く。角を曲がり、健の姿が見えなくなっても、彼が追いかけてくることは無かった。
「……で? これは何だ?」
週明け、私を貫くのは社長の冷ややかな眼差しだ。
私はそんな視線を無視して、社長のデスクに広げた商品の説明を始めた。