秘め事は社長室で


ふと、寂寥のような感情がさざ波を立てる。
でもそれが何に対する感情なのか分からず、私は笑顔で蓋をしながら握った拳を掲げて見せた。


「これからはもう平気です!」


社長はまた私を一瞥して、けれどそれ以上何かを言うことは無かった。

それから、更に半月。
その後も何事もなく、なんなら健の存在すら思考の片隅に追いやられてきた頃。


「昼、食ってから帰るか」


社長が零したのは、珍しく二人で外出した訪問先から、駅までの道を辿る途中のことだった。
すっかり秋めいてきた街並みに気を取られていたせいで、反応が一拍遅れてしまう。


「え」
「何か食いたいもんは」


言いながら、社長の指先はスマートフォンの液晶をすいすい操作している。

お昼。社長と、二人で。
それはなんだかひどくチグハグな響きで、妙な気持ちになってしまう。戸惑う、というか。

つい微妙な面持ちで固まってしまった私を、涼やかな眼差しが捉えた。


「希望ないなら適当に決めるけど」
「あっはい、私はなんでも……」


答えてから、あっこれむしろ私がお店探すべきだったのでは? と反省する。

でも、あまり来たことがない駅の、ちょっとしたランチに良さそうなお店なんてすぐには思いつかない。もう社長は調べ始めてくれてるみたいだし、ここは甘えて任せてしまうか……と思いながらも、一応眉を下げつつ社長を窺う。


「あのー……すみません、お任せしてしまって」
「いい。あんたに調べさせたら時間かかりそうだし」
「……」


だから、一言多いんだって。
まあ確かに仰る通りですけど? 知らない街の、しかも相手が社長じゃ、たかがランチとはいえそれなりに気を遣いますよ、流石の私でも!

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