秘め事は社長室で

大体、去年まで海外ばっか転々としてたくせに、そっちこそお店選びなんかできるわけ? そんな胡乱な視線を向けながら着いていった先、辿り着いたのは大通りから一本外れた所に建つ、小ぢんまりとした木造のカフェだった。

溢れんばかりの緑と小花で彩られた外観。入口を潜ると高い屋根が出迎えて、ゆったりと開放的な空間が広がっている。店内は多種多様な観葉植物の緑と木目調の家具で統一されており、店を囲うように設置された大きな窓からの採光だけで明かりの殆どを担う、自然豊かなカフェだ。

まさか、こんな可愛らしいお店に連れてこられるとは。
エプロン姿の店員さんと言葉を交わしている社長をそっと盗み見る。お洒落だし、とっても素敵なお店だけど、きっちり着込んだスーツ姿の社長は正直あんまり馴染んでいない。まあ、そもそも目立つ容姿をしているから、私服だったところで店内の女の子たちから刺さる視線の数は、そんなに変わらないような気もするけれど。

やや緊張した様子の店員さんと社長が話し終わり、窓際の席に案内される。横幅広めの椅子にはふかふかのクッション。脚の長い社長でも窮屈さは感じなさそうな、広くて静かな、いい席だ。

射し込む柔らかな陽光に目を細めながら、備え付けのメニュー表を手に取る。


「意外でした。こういうお店も来るんですね」


オーガニックが推しの、野菜中心のメニューはやっぱりどことなく若い女の子向けだ。店内の客層からもそれは伝わってくる。


「……デートとかに使ったり?」


ついからかう口調で尋ねてしまったのは、いつもと違う雰囲気に気が緩んでいたからか。
口にしてから、さすがに踏み込み過ぎたかと舌を出す。けれど、射干玉の瞳はちらりと私を見ただけで、特に気を害した様子もなくライトブラウンのテーブルに落ちていった。

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