秘め事は社長室で
「トイレは部屋出て右、突き当りを曲がったところな。電気のリモコンはここ。コップはそのままでいいから」
テキパキと指示をした社長が、ベッド横のサイドテーブルにマグカップを置く。
「おやすみ」
立ち尽くす私に気付いているはずなのにそのまま、社長は出て行ってしまうので。
薄暗い部屋にふかふかと気持ちよさそうなベッド。
見慣れない男の人の私物に溢れた部屋で、私はしばらく唸ることしか出来なかった。
結論。眠れるわけもなく。
予想通り体を優しく包み込むマットレスと羽のように軽い布団に埋もれながら辛抱強く目を瞑っていた私は、ガチャリとドアが開く音にぱちりと目を開いた。
ぎしり、ベッドの端っこが重みで軋んで、視界に夜空のような瞳が降る。
掛け布団から目元だけを覗かせていた私は、ぎくりと体を強張らせた。
「……」
「……」
「眠れないか」
「……まあ」
「添い寝してやろうか」
「結構です」
即答して、けれどふと思う。
「あの、社長はどこで……?」
十中八九、ここがいつも社長が眠っている部屋だろう。
「俺は別に、わりとどこでも寝れる」
「えっ。来客用の布団とか」
「家に人を入れることがまず無いな」
そうなんだ……。
つまり私は家主の唯一のベッドを奪っているということ!?
ちらりと社長を見る。しっかりと目が合って、微かに笑われたような気がした。
「やっぱり一緒に寝る?」
「……いや! 無理です!」
一瞬検討したけど、ほんと一瞬で結論が出た。
眠れるわけないし、緊張でどうにかなってしまう、多分。
社長は今度こそ喉の奥で笑って、かと思うと何かを思い出したかのように瞬きをした。
「そういえば、リビングにこれ落としてたぞ」
「え?」
社長がポケットから小さな何かを取り出す。
「……あ!」
目を凝らして見ると、それはあの時健に噴射した催涙スプレーだった。


