秘め事は社長室で
革張りのソファーに足を組んで座り、文庫本を読んでいた社長が顔を上げる。
「うるさいな……」
「すみません! お風呂ありがとうございました! お次どうぞ!」
「……」
柳眉を微かに跳ね上げた社長が、本をぱたんと閉じるとサイドテーブルに置いて立ち上がった。
そのまま迷わずこちらに歩いてくるものだから、思わず少し構えてしまう。
「な、なに」
「髪、濡れてる」
するりと自然にひと房掬われて、社長の指先が濡れてしまった。
「え、あ、大丈夫ですあとで乾かします」
「乾かしてやろうか」
「今乾かしてきます!!」
叫んで、脱衣所に逆戻り。
すると社長まで着いてきて、戸棚にしまわれていたドライヤーを出してくれた。
「悪い。しまったままだった」
「いえ……」
「焦らなくていいからゆっくり乾かして来いよ」
ぽんぽんと優しく頭を叩かれて、思わず唇を噛む。
なんだか甘やかされている。それがどうにも、むず痒くて。
しっかりとドライヤーをかけ、リビングに戻ると社長がキッチンに立っていた。オールステンレスのアイランドキッチンは、社長の姿がよく見える。
「社長?」
「ん。何か飲むか? 腹は?」
「お腹はそんなに……」
バタバタしてて何も食べれてないけど、正直空いていない。
「まあ、疲れたろ。今日はもう寝た方が良い」
「はい……」
「紅茶でいいか?」
「あ、はい。あの、自分で……」
「使い方わからないだろ」
そう言われてしまうと何も言えない。
ティーバックで紅茶を淹れてくれた社長が、マグカップ片手にやって来る。
「こっち」
「はい。あの、私持ちます」
そうマグカップに手を伸ばすけど、華麗にスルーされた。
連れてこられた先は寝室で、入ると同時、いい香りに包まれて少しどぎまぎしてしまう。いつもの社長の香りを、もう少し濃くしたような。
男のくせになんでこんないい香りがするんだか。本当に腹立たしい。