密かに出産するはずが、迎えにきた御曹司に情熱愛で囲い落とされました
初めて訪れた法律事務所が物珍しくキョロキョロと周囲を見回していると、そんな私の様子に気づいた女性がニコリとした。

「石橋さんは、うちの事務所をご利用いただくのは初めてでしたよね?」
「あ、はい」
「今日は君塚(きみづか)先生の予約が取れてラッキーでしたね!」

満面の笑みで言われ、私は目をしばたたかせる。

「えっと、君塚先生は人気の弁護士さんなんですか?」
「はい! 一般民事を中心に幅広いジャンルを扱っていて、数々の解決実績をあげるうちの事務所のエースなんです! ご実家の会社経営にも携われていて、お忙しいのでなかなか予約が取れないんですけどね」
「そうなんですか」

大手法律事務所のエース弁護士にして、会社経営者?
そんなすごい方の名刺を、なぜ祖母が持っていたのだろう。

「こちらが君塚先生のオフィスです」

足を止めた女性が、目の前のドアを手で指し示した。

「失礼します。石橋さんがお見えです」

ノックをしてドアを開けた女性に続いて入室する。
オフィスチェアーに座っていた男性が、私を一瞥して立ち上がった。

この人が、君塚先生……?

「お待ちしておりました。こちらへどうぞ」

部屋の中央にある応接セットに案内された私は、思わず目を見張る。

「あ、はい……」

なぜなら、君塚先生が息を呑むほど美しい容貌をしているからだ。

ほどよくセットされた黒くサラサラの髪の毛に切れ長の瞳、スッと高く伸びる鼻梁、形の綺麗な唇。
黒色の細身のスーツをビシッと着こなしていて、これほどまでに整った外見の男性に出会ったことがない。

正に眉目秀麗という言葉を体現したような人物。

「弁護士の君塚透真(とうま)です。本日はよろしくお願いします」

言葉は丁寧だけれど平坦な口振りで、よく言えばクールな雰囲気、悪く言えば事務的で冷淡な印象だった。
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