偽物のご令嬢は本物の御曹司に懐かれています
4.お見合い話は突然に(side倉木)
 突然降って湧いたようにその話は飛び出した。

 とある平和な日曜の昼間。いつものように昼食を作り終えると、時間を見計らったように大あくびをしながら母がリビングに現れた。

「おはよ〜。お。うどん。助かるわぁ、昨日飲み過ぎちゃって」

 まだパジャマ姿の母はそう言って席に着く。だらしなく見えるが、これは家での姿。世の中ではやり手女社長で通っている。傾きかけた稼業を立て直したどころか、今じゃそれなりの年商に成長させたのは母だ。僕はその会社で、常務という名の召使いとしてこき使われている。

「あ、そうだ。忘れないうちに言っとく」

 うどんをしばらく啜ったかと思うと突然母は顔を上げた。椅子は2脚だけのそう大きくないダイニングテーブルの向かい側で。
 この家に越してきてからずっとそうだった。両親は自分が小学生の頃離婚した。突然実家の家業を継ぐことになった母と、それを受け入れられなかった父の間で折り合いがつかなかったらしい。
 そのとき僕は世界の終わりなのかと思うほど泣いた。両親が別れることより、転校しなくてはならなかったことに。後にも先にもあんなに泣いたことは無い。

「何を?」

 昔のことを思い出しながら返すと母は笑顔を見せた。それに嫌な予感しかしない。

「お見合い。することになったから!」
「……よかったね。いい人だったら再婚しなよ」

 うどんを口に運びながら聞き、興味なさげに返す。

「何言ってるのよ。違うわよ!」

 勢いよく否定され、うどんを持ち上げたまま無言で顔を上げる。と母は言った。

「あなたがするのよ! 冬弥(とうや)!」
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