*触れられた頬* ―冬―
「おい、いつまで隠れてるんだよ、モモ!」

 凪徒はタイミングを(のが)して依然出てこないモモへ、ハッパをかけるようにぼやいたが、モモは二人の会話を聞くことだけに集中していた所為(せい)か、心の準備が出来ないまま押し出される形となった。

「「あ……」」

 現れる、椿とモモの言葉にならない心の声。

「あの……あの……もっ、桃瀬です! ……お、母さ、ん……」

「も……も、せ……──」

 モモは身じろぎすら出来ぬまま、気付けば凪徒の前に立たされていた。

 視界に映った母親は、一瞬瞳を合わせたものの、モモの名を(つぶや)き両手で顔を覆ってしまった。

 モモより淡く長い茶色の髪を後ろで結い、見える手の甲は雪のように白い。


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