*触れられた頬* ―冬―
「ロシアの歴史にも精通していらっしゃるなんて……頭の下がる想いです。……はい……私の家は……ロシア貴族の血筋を継承する家系……実際には途中で男系が途切れましたので、ダヴィドフ家から後嗣(こうし)を迎えて引き延ばされた、名ばかりの伯爵家ではございますが」(註1)

「やはりそうでしたか……。いや、まさかこんな身近に、貴族の血を持つ方がいらしたとは」

 感嘆の溜息を吐き出しながら、凪徒は笑みを(こぼ)した。

 そして思う。杏奈のモモを見出したあの嗅覚。

 さすがとしか言えないな、と。

 ──き、貴族!? ……伯爵?

 そしてモモは余りに途轍(とてつ)もない二文字二つに、(おのの)きを隠せないまま口をあんぐり開けてしまった。

 ──それが自分の中にも流れているってこと!?

「あの……何処(どこ)から話したら良いのか分からないと思いますが、まずはうちの別荘を離れてからの、貴女の軌跡をご説明いただけませんか?」

「は、はい……」

 凪徒の申し出に(ほの)かな戸惑いを(のぞ)かせた椿は、深い(うなず)きを返し、同じ表情をしたモモを振り返って、繋いだその手をギュッと握り返した──。



[註1]オルロフ家:現実に存在しますが、椿やモモとの繋がりはもちろん架空のお話です。そしてこれこそが、凪徒の気付いた通り、杏奈がモモに(こだわ)った原因・理由でした。


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