*触れられた頬* ―冬―

[39]衝撃と襲撃

「ロージュ……(嘘……だろ?)」

 支度を済ませて早速サーカスへ(おもう)いた二人は、取る物もとりあえずブランコの練習を始めた。

 モスクワ滞在時も運動は欠かさないつもりでいたので、練習着の兼ねられるトレーニングウェアは持参している。

 それを(まと)っているため筋肉の動きまでは見えないが、ニクーリンのブランコ乗りに勝るとも劣らない舞を見せる子供のような少女(モモの姿)を見上げて、団員の多くが我が目を疑っていた。

 凪徒の動きは見ずとも、背格好・その表情から発せられる自信に満ちた雰囲気によって、それなりの演舞をすることは予想されていた。

 が、モモはロシア人から見れば小柄で華奢(きゃしゃ)で、まるで小動物のように大人しい容貌からも、あれだけの精緻溢れるしなやかな動きが出来るなどとは、誰も思っていなかった。

「モモ~、一旦休憩だ!」

「あ、はい」

 支柱に戻った凪徒から叫ばれ、逆の支柱を軽やかに降りたモモは、地上で唖然としながら静観していた団員達の視線を一気に集め、同じように言葉を失った。


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