*触れられた頬* ―冬―
「桃瀬、楽しみにしているわ。いつもの調子で、自分も楽しんで飛んでちょうだいね」

「お母さん……」

 自分自身も、楽しんで。

 ──そう……そうじゃなくちゃ、サーカスは意味がない。見せる側が楽しめなかったら、楽しいことなんて伝わらない。

「はい。お母さん、行ってきます!」

 モモは口元を引き締めて椿に(うなず)いた。

 先に背を向けた凪徒に続く。

 ──此処で……珠園サーカスでない此処で、芯から自分が楽しめて舞えれば、あたしはきっと何処(どこ)でもやれる。きっと……そのパートナーが、たとえ先輩でなくなったとしても。

 一瞬目の前が(かす)かに揺らいだ。

 いつの間にか涙で曇って、凪徒の背中がぼやけて潤んだ。

 ──あと何度残されているのか分からない先輩とのブランコ、思いっきり楽しもう!

 モモは瞳を覆う水の膜が乾いてなくなるように、一生懸命その高い影を追った──。


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