*触れられた頬* ―冬―
 モモは椿へニッコリと微笑み、観客側から見て右の支柱へ走り寄った。

 聞こえるBGMのリズムに合わせて、サポート役の団員の立つ足場に到着し、そこでパッと明るく華やいだ上空から、凪徒とモモ、そして二人のサポーターがにこやかに手を振りポーズを決めた。

 ──普段通りにやってくれよ~!

 凪徒は宙の向こうのモモに訴えるように、ジッと少女を見据(みす)え、交互になるタイミングでブランコを流し始めた。

 それでなくとも高さや距離、会場の雰囲気がいつもとは違うのだ。

 そして──モモの表情も、全身から放たれる陽炎(かげろう)のようなオーラの色も、いつになく穏やかではなかった。

 気迫すら(うかが)える不思議な力強さを凪徒は感じ取っていた。

 ──あいつ、何を考えてるんだ? 何をしようとしている?

 が、飛び立つ準備の時が来た。二人は示し合わせてブランコに身を任せ宙を舞った。

 鮮やかなラインの見えそうな弧を描き、モモの輝きを放つ大きな瞳が、凪徒の困惑する顔に近付き(かす)めていった。

 それでも中盤までは日本での公演と同じようにこなされ、眼下の観客もその技の美しさに魅了されていた。

 凪徒も気のせいであったかと思い直し、表情は明るく(やわ)らいでいた。


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