*触れられた頬* ―冬―

[46]帰国前日と帰国当日 〈M〉

 とろりとした春のような陽差しが、モモの頬を照らしていた。

 (まぶた)がそれを感じ取って、数回震えて瞳を見せる。

 しばらくそのまま微動だにせず、自分を包み込む温かさにまどろんでいたが、隣の気配に気付き、ゆっくり身体を反転させた。

「もう少し寝てても大丈夫だけど……良く眠れた?」

 目の前には半身を起こした椿がいて、昨日サーカスで撮影した写真を嬉しそうに眺めていた。

「うん、ぐっすり。お母さんは?」

「私もよ。おはよう、桃瀬」

 母親の笑顔は、朝陽の光よりも(まぶ)しく思えた。

 そして思い出す、昨夜の二人の会話。

 あの後、泣くのを我慢しながら、沢山のことを考えたことを。

 離ればなれになった母親と、こうして再会出来たのだ。

 きっといつか……凪徒とも再会出来る日が来る。

 だから先を考えてくよくよするのはよそう。

 そう思えたらあんなに止め()なかった涙も止まり、心地良い眠りに身を(ゆだ)ねられた。


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