*触れられた頬* ―冬―
「おはよう、お母さん」

 モモも同じように上半身を立ち上げて、にこやかに挨拶をした。

 それからカミエーリアの手伝いをして三人で朝食を取り、小一時間程たわいもない話で盛り上がった。

 凪徒の迎えもまもなくの頃、椿は昨日のようにしてあげようとモモの髪を()き、少しアレンジを加え、ふんわりとしたお団子に白いシフォンの飾りをつけてやった。

「お母さん、ありがとう」

 合わせ鏡で可愛い後ろ髪を確認したモモは、元気にお礼を言いながらも面映(おもは)ゆい表情を見せた。

 モモは普段ショーの時でも髪をアップにしない。

 初めの頃は鈴原夫人にやってもらっていたが、開演前の忙しい最中(さなか)に他人にお願いばかりはしていられない。

 自分でも出来ないことはないのだが、髪を降ろしたままでも特に問題はなく、意外に観客の反応も悪くなかったので、そのままで出演するのが常になっていた。

 支度の整ったところで凪徒が到着し、しばし椿とカミエーリアにお別れをして、二人は前日と同じようにオールド・サーカスを目指した。

 途中モモは時々凪徒の横顔を見上げたが、彼の表情は特に何も示さず、昨夜のことは夢の中の出来事だったのではないかと、一瞬思ってしまう程だった。


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