*触れられた頬* ―冬―
 最終日である翌朝も、前日同様光に満ちた冬晴れだった。

 早目にチェックアウトを済ませ、残りのお土産分の空間を残した(カバン)をフロントに預ける。

 橋向こうのクレムリンに足を伸ばし、凪徒は懐かしく、モモは初めての好奇心を持って、幾つかの大聖堂や教会の荘厳な内部・宮殿や大統領府の整然とした外観を、少々足早ながら楽しんだ。

 ギリギリ買い物を済ませる時間を残し、モモはおめでたの三人にロシアの人気キャラクター「チェブラーシカ」の人形やベビー用のTシャツを買い込んだ。

 ホテルへ戻って荷を受け取り、椿のアパートを目指すタクシーの中、はやる気持ちが心だけを先へ先へと飛ばしていた。

 あと数時間、母親との最後の時──。

「お母さん!」

 一昨日と同じくダイニングへの扉を押し開く。

 刹那目の前に広がった空間に、大きな破裂音と色とりどりのテープや紙吹雪が舞った。

「えっ!?」

「桃瀬! 二日早いけれど……お誕生日、おめでとう!!」



 開いたクラッカーを片手に掲げ、晴れやかな椿の笑顔がモモを迎えていた──。


< 188 / 238 >

この作品をシェア

pagetop