*触れられた頬* ―冬―

[47]人形と卵

「乾杯!!」

 意外なご馳走を前にして、凪徒とカミエーリアは甘めのシャンパン、椿とモモはこけもものジュースで、軽やかな音色を奏でる祝杯を挙げた。

「今だけは日本にいるのだと思ってね」

「え?」

 ふふふと笑う椿にモモは不思議そうな顔をしてみせた。

 ロシア最後の食事となるのだから、てっきりロシア料理が待っているのかと思いきや、食卓に並べられたのは全て日本食であったのだ。

「ロシアでは縁起が悪いと云って、誕生日前には絶対お祝いをしないのよ。でもその頃貴女はもう日本にいることだし……だからこのパーティは日本式で。ひなまつりも兼ねてね」

「ありがとう、お母さん!」

 モモと椿・凪徒とカミエーリアの間を埋め尽くす料理は、目にも鮮やかな大皿のちらし寿司に、ハマグリに似た貝のお吸い物、子供の好きそうな唐揚げにミニハンバーグ、クリーミーなポテトサラダも沢山盛り付けられていた。

 そして誕生日のメインとも言えるバースディ・ケーキも!

 全ては椿が下ごしらえをし、カミエーリアの調理で完成されたと聞き、モモはこの仕込みの為、午前の時間を()いてくれたことに心からの感謝をした。


< 189 / 238 >

この作品をシェア

pagetop