*触れられた頬* ―冬―
「モモ、すげぇぞ!」

 後ろから掛けてきた凪徒の声が珍しく興奮気味だったので、ふと立ち止まり振り返る。

 いつの間にこんなに坂を登ったのだろう。

 眼下に広がる街並みが夕焼け色に染まり、その向こうには太陽に照らされた水平線が、空と分かつように真っ直ぐ伸びていた。

「きれ、い……」

 見惚れて言葉を途切れさせたモモの背後から、賑やかな沢山の(ざわ)めきが聞こえてくる。

「あー! ほらっ、帰ってきたよー!! おかえりーモモたーん! ナッギー!」

 背中で受け止めていたスーツケースの向こうで、ずっと待ち焦がれていた声が迎えていて、モモは美しい景色を惜しみつつも皆の(もと)へと駆け出した──その刹那。

「「「モモー! おめでとーう!!」」」

 ──え?

 大勢の声が同時に祝福を投げ、眼前のゲートへ白地に黒字の横断幕が掲げられた。その言葉──



 == 祝! モモママ発見!! ==



「あ……」

 もう泣かないと決めていたのに──

 皆の笑顔と拍手と万歳三唱に、途端足が止まってしまった。

 それでも集まってきたメンバーに、泣くのを我慢しながら微笑んで感謝を告げる。


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