*触れられた頬* ―冬―
「このまま黙って聞け、モモ。モモは謝らなくていい。いいんだ……誰も騙したりなんてしてないんだ。隠してることなんて、気にしなくていい。本当のことを知ったら、誰もモモのことを(とが)めたりなんてしないから。ごめんな……気付いてやれなくて、ごめんな。ずっと辛かったろ? あっちにいる間も苦しかったんだろ? なのに何にもしてやれなくて、ほんと、ごめんな──」

「暮……さん、何で……?」

 モモの涙が移ったように、微かに泣き声でひっそりと伝えた暮を、モモはきつく抱き締められた胸の内から問い返した。

「茉柚子さんから全部聞いた……なのに俺には何も出来ない……ちくっしょ──」

「ありがとう、ございます……ありがとう! ……暮さん──」

 モモは再び泣きながら、今度は感謝の言葉を叫んだ。

 周りは騒然としながらも、モモから「ありがとう」の言葉が聞こえて安堵する。

「意外なところに……それも随分歳の行ったライバルがいたもんだな、凪徒」

 集団からやや離れて呆然と立つ鈴原が、隣の凪徒に苦笑した。凪徒は、

「あ、ああ……。ん!? いや違うだろっ! 変なこと言うなって鈴原(にい)!!」

 慌てて否定をしたが、やはり真ん前の異様な光景に、凪徒も戸惑いを隠せずにいた。

 ──どういうことなんだ、一体……?

 依然その細い身体を抱き締める暮と、応えるように抱き締め返すモモの重なった二つの影が、敷地の手前のアスファルトに黒々と長く伸びていった──。


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