*触れられた頬* ―冬―

[49]よそよそしい影とひたむきな影

「今回こそは説明しろ!」

 翌夕。

 凪徒は公演を終えた暮の腕をひっつかみ、昨夕の状況を究明していた。

「今回こそって何だ? 『こそ』って?」

 相変わらず飄々(ひょうひょう)とした暮ピエロは、衣装室でメイクを落としながら、赤玉鼻を喰いちぎりそうな凪徒を目の端に映す。

 この日とその翌日の休演日を、凪徒とモモは休むように命ぜられ、凪徒は時差ボケや旅疲れを癒すように、軽い運動だけを心掛けた。

 モモはおそらくじっくり鑑賞出来るのは最後になるであろうと思い、皆のショーを観客席からじっと見つめた。

「お前、以前モモが泣いた時に、原因も理由も教えなかったじゃねぇか。あん時は我慢したんだ。今回は教えたっていいだろうが!」

「ああ~そゆこと」

 クリクリのカツラを外して緩やかな焦げ茶の髪をボリボリと掻きむしる。

 暮はモモが洸騎からキスされそうになったあの日を思い出して、「まったく記憶力がいいなぁ」と聞こえないようにぼやいてみせた。


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