*触れられた頬* ―冬―
「あらん……こんなに返されているのに?」

「……え?」

 心配そうにトーンを落としていた杏奈の口調がいつもの様子に戻って、その調子と台詞(セリフ)の内容に、モモはきょとんと目を丸くした。

「明日葉、私も君には沢山の勇気を貰ったよ。余命幾ばくもないと信じていた時も、君の必死な想いが私を救ってくれた。それに、君の笑顔が私のライフワークを決めてくれたんだ。今回の事業には桜コーポレーションだけでなく、高岡プランニングも共同出資する。その後押しをしてくれたのは──君の存在だった」

「お、父様……」

 モモは園長の向こうに腰を降ろした高岡紳士へ、涙が(こぼ)れそうな瞳を向けた。

 水の膜を通して映る『たった四日間の父親』は、今でも娘であるモモに精一杯の愛情を注いでいた。

「計画は数年前から始まっていたけれど、隼人さんを此処まで本気にさせたのも、モモちゃん……貴女だと思うわ。それにね、自分の子供が欲しいと心から思わせてくれたのも貴女。だって~こんなに気持ち良いほっぺがいつでも触われるのだもの!」

「えっ!」

 目の前で返された二つの答えに呆然として、以前のように頬を撫で回した杏奈へ、モモは驚きの大声を上げてしまった。


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