*触れられた頬* ―冬―
「モモ」

「あ……はい」

 次に呼んだのは、涙を拭いて元に戻った園長の微笑みだった。

「皆さんの(おっしゃ)る通りよ。貴女の笑顔でどれだけ励まされてきたのかしれないわ。きっとサーカスを見にきたお客さんも同じ……そんな細い身体で、輝かしい笑顔で、一所懸命に宙を舞う貴女の姿を見たら、きっと勇気づけられている筈よ。だから何も返せていないだなんて落ち込まないで。これからも楽しいショーを見せてちょうだい」

「園長先生……」

 語られた瞬間、団長も茉柚子もモモに大きく深く(うなず)いてみせた。

 高岡紳士も桜社長も、そして杏奈もにっこりと口角を上げる。

 モモは沢山の眩しそうな弓なりの瞳に、自分という弱い小さな存在が、しっかり認められていたのだと気付かされた。


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