*触れられた頬* ―冬―
 それから数日後。

 桜社長と高岡紳士は決められた日時に施設を訪れ、園長との正式な契約が交わされた。

 二人の取り計らいで、洸騎がクライアントに依頼した交換条件も、何のお(とが)めもなく反故(ほご)にされ、全ては順調に運び、穏やかな日常が取り戻された。

 そんな三月の、モモの『昔』の誕生日──。

「うん、大丈夫。もうすぐ桜の綺麗な町へ移動するの。そう、毎年必ずこの時期に公演する所。桜が満開になったら、お母さんに写メ送るからね。あ……暮さん……うん、ピエロのお兄さんが呼んでるから、これで切るね。まだモスクワは寒いでしょうから、お母さんも身体に気を付けて! はーい、それじゃ……」

 モモは暖かな陽差しに包まれたベンチにて、買い換えたスマートフォンから、椿とインターネット通話を楽しんでいた。

「あ、わりい……母さんと電話してたのか?」

 手を振りながら駆け寄ってきた暮が、モモの笑顔から電話の相手を割り出した。

 隣に腰掛け、申し訳なさそうな表情を寄せる。

「あ、はい。でもそろそろ終わりにしようと思っていたところでしたから」

 暮は少女の満足気な様子を感じ取り安堵したが、しかし少々切なそうにその顔を(のぞ)き込んだ。


< 233 / 238 >

この作品をシェア

pagetop