*触れられた頬* ―冬―
「ちょっと受付行ってくるから、その辺ブラブラしてろよな」

「は、はい」

 館内に入った其処には少し懐かしさを感じさせる、カラフルで軽やかな世界が在った。

 開場前の期待を膨らませる子供達も、それに付き添う大人達も全て童心に返り、サーカスの楽しいグッズに目を奪われたり、ショーの主役である動物達との撮影や、甘い香りを漂わせる綿菓子やポップコーンに心躍らされている。

 モモはその場の魅惑的な雰囲気に駆け寄りたくなるような衝動を感じ、また数日離れている珠園サーカスを恋しく切なく思い出した。

 ──みんな……どうしてるかな。入院したリンちゃんも、おめでたの夫人や杏奈さんも元気にしてるのかな……。

 あと幾日かすれば新しい街での興行も始まる。

 自分は大した力にはなれないが、凪徒一人いないだけで男手の必要な準備作業にはかなりの支障を来たすだろう。

 自分の為に皆にも影響を与えているのだと思ったら、一日も早く戻りたいと心から感じられ、そしてもしも母親を見つけられないままの帰国となったら……皆にどれだけ申し訳ない気持ちになるのだろうと、この華やかな視界から一瞬目の前が真っ暗になった。


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