マーメイド・セレナーデ
「じゃな、翔太」

「ああ、また」



帰宅部の俺と真知には遅くまで学校に残ってる理由がない。
バッグを持って立ち上がった俺に、声を掛けるから、求められるままに返してやる。
馴れ馴れしく乱暴に肩を叩いてくる連中もいるが、そんな不満は押し込めて、じゃあな、と口にする。

教室にはまだまだ帰る気のなさそうな連中がたむろして、ぐだぐだ話を続けてる。

ただでさえ家から遠く離れてた学校。
一つバスを乗り遅れるともう家に帰れないってのはザラじゃない。

べつにどこかに寄り道して、どうこうしたいわけじゃないけれど。
教室に残っているクラスメイトを見てるとなんだか言いようのない感情でごちゃまぜになる。

だから、18になったらすぐに二輪の免許を取ると決めてる。
幸い、春生まれの俺はうまくいけば5月が終わる頃には取れているはずだった。

そしたら通学も格段と楽になるはずだった。許可なんて先生をねじ伏せてまでもぎ取ってやる覚悟で。
得体の知れないものから、悩まされることなんてもうなくなるはずだ。
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