マーメイド・セレナーデ
「翔太ももらった?進路調査」



真知にちらりと視線をやって、ああ、と一言告げた。

ロッカー室に用があるのは俺だけで、真知はロッカールームの扉に寄りかかって話し始めた。
俺からは横顔しかみえない。下を向いて片足を揺らしながら真知は続ける。


もし、真知があれを口にしたらどうなるんだ。……誰も知らない、幼い頃の約束。


将来、と言えば少し前まで俺もそれしか思い浮かばなかったけれど。
もう、約束、夢ばかりをただひたすらに見続けることができない年になってきたこと、真知は気付いているのか。



「あたしは、やっぱり家業手伝いかなぁ。翔太のとこと違って、うちは農家だから。でもまだ、将来なんて考えられないよね。大事なこと、今すぐに決められるわけないのに」



何故だか、その言葉にいらだって乱暴にロッカーのドアを閉めてしまった。
真知の驚いた顔に、なんだか苦い思いを味わったけれど。
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