マーメイド・セレナーデ
薄っぺらいバッグは本当は手提げ用なのに、むりやりリュックみたいに腕を通して、飛ぶように歩く真知のあとを続く。



「もう、歩きたくないな。まだまだ1時間もある」

「来年は俺が二輪の免許取ってるから」



2人乗りできるのはさらに1年経ったあとらしいが、どうせこの田舎。バレはしない。



「じゃあ、翔太の後ろに乗って毎日登校ね」



それが、あと1年半しかないことに真知は気付いてるのか。
浮かれたようなその後姿に胸の不安と刺々しさは増すばかり。


もうずっと、2人でいることが多かった俺たちにとってそうそう会話がなくてもそばに居ることだけが当たり前だった、……けれど。

時折聞こえる真知の鼻歌をBGMに長い長い道のりを進んだ。



「じゃな、また明日」

「うん、またね」



一足先に真知の家が見えてきて、片手を挙げて真知を見送った。
隣に居なくなったことで、深い溜息をついた。


いつからだったか。
2人でいることに窮屈を覚えたのは。
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