マーメイド・セレナーデ
引き戸を引いて靴を脱ぐとお袋が顔を出した。



「ただいま、くらい言いなさいよ」

「ああ、」

「全く可愛くない子に育っちゃって。真知ちゃん、早くうちにお嫁に来てくれないかしら」



そうやって、俺を徐々に見えない包囲網で追い詰めているのを気付いているのだろうか。

好きに、なんて言っておきながら俺に、俺の手のひらで掴める選択肢は多くないことをわかって、言ってるのか。
もちろん、背伸びすれば、ジャンプすれば、無理をすれば、なんだってできる。できるものを持っている。


ただ、変化のないここでそれは得策とも言えないだろうに。
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