マーメイド・セレナーデ
「柏木くん」
昼休みの教室、椅子を傾けながらギコギコさせていると俺を呼ぶ聞きなれない声。
返答もせずに視線だけ向ければ一瞬怯んだように、半歩後退くのがわかった。
怯えるなら、近づかなけりゃいいのに。
上靴の色からそれが先輩であることはわかったけれど、俺を恐れるなら興味ないとまたギコギコ椅子を揺らして視線をどこ、とは定めずに彷徨わせた。
夏がすぐそこまで近づいてきていて、刺すような日差しを受けながらグラウンドで球遊びをしている同級生を見つけ、若いななんて考えて、また思考を遮られた。
「柏木くん」
ちらりと視線を向けるが、もうすでに彼女に俺の興味はない。
さっさと立ち去ればいいのに、その場から動かない先輩に呆れた。
後輩の教室に入ってくるだけでも目立つのに、俺に話しかけていることでさらに目立っている。
顔を見たけれど、俺の覚えている限り、見たことも、話したこともない接点のない先輩だった。
印象からして、クラスで一人はいそうな地味な子だった。
それが俺に何の用だ。
昼休みでも少なくない人数のクラスメイトから寄せられる視線に耐えられないのか、微かに震えてるのを見て取って俺は傾けていた椅子を大きな音とともに床につけて立ち上がった。
俺も大概お人好し。
「先輩、行きまっしょっか」
そのまま先輩の横をすり抜けて教室を抜け出した。
昼休みの教室、椅子を傾けながらギコギコさせていると俺を呼ぶ聞きなれない声。
返答もせずに視線だけ向ければ一瞬怯んだように、半歩後退くのがわかった。
怯えるなら、近づかなけりゃいいのに。
上靴の色からそれが先輩であることはわかったけれど、俺を恐れるなら興味ないとまたギコギコ椅子を揺らして視線をどこ、とは定めずに彷徨わせた。
夏がすぐそこまで近づいてきていて、刺すような日差しを受けながらグラウンドで球遊びをしている同級生を見つけ、若いななんて考えて、また思考を遮られた。
「柏木くん」
ちらりと視線を向けるが、もうすでに彼女に俺の興味はない。
さっさと立ち去ればいいのに、その場から動かない先輩に呆れた。
後輩の教室に入ってくるだけでも目立つのに、俺に話しかけていることでさらに目立っている。
顔を見たけれど、俺の覚えている限り、見たことも、話したこともない接点のない先輩だった。
印象からして、クラスで一人はいそうな地味な子だった。
それが俺に何の用だ。
昼休みでも少なくない人数のクラスメイトから寄せられる視線に耐えられないのか、微かに震えてるのを見て取って俺は傾けていた椅子を大きな音とともに床につけて立ち上がった。
俺も大概お人好し。
「先輩、行きまっしょっか」
そのまま先輩の横をすり抜けて教室を抜け出した。