マーメイド・セレナーデ
「これは無理かな」



相変わらず、首元まできっちり止められたボタンとリボンタイに目がいってそれから彼女の口元に目をやった。



「なんで」

「デザイン性を求めるならいいと思うんだけどね?……今回のとは少し、コンセプトが違うと思うの」

「あぁ、そうか」

「でもこれはできる、かな?……柏木くん、もっとよくなると思うよ。そういっても指導できるような腕、もってないんだけどね」



どれ、とノートを覗く前に先輩は俺に向き直って全身を上から下へと眺めて。
エプロンからノートを取り出すとぶつぶつと呟きながら何かを書きつけて行く。メジャーを出して計り始めたから俺はされるがままになった。

こうなった先輩はもう何を言っても無駄だということは過去2回の着替えで学んだからだ。



「じゃあ今度これなんだけど……」

「あぁ」



最終バスの時間が来るまで、毎日こうやって先輩の着せ替え人形となっていた。
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