マーメイド・セレナーデ
「ごちそ……」

「ねぇ、最近真知ちゃんと一緒に帰ってきてないんだって?真知ちゃん、元気ないらしいわよ。あんたも最近帰ってくるの遅いし」



箸を置いたら、俺の声に被せるようにお袋が畳み掛けてきた。
攻めるようなその視線にじっと堪える。

親父をチラリと見たら、我関せずとこちらを見ようともしない。

探るような視線に耐えられなくなって立ち上がるけれど、お袋の視線はいつまでもついて回る。


いつまでも逃げていられない。
つきまとう不安から俺はこれはここで断ち切るしかない。



背中に視線を感じて、俺は立ち止まる。
リビングのドアの桟に寄りかかって俺は、息をとめた。覚悟を決めた。
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