マーメイド・セレナーデ
「家を、家を出るってのはアリか?」

「あんた、本気?…………そりゃあ、構わないけど、どこに」



大学の、専門学校の名前を告げた。けれど、ぴんとこなかったようで戸惑いが背中越しに伝わった。だから、街の名前を続けて告げた。



「……翔太、決めたの?」

「もう決めた」

「そう。……なら、もう何も言わない。ねぇ、お父さん」

「授業料は出そう」

「いや、」

「翔太」



背中を向けていたから親父が、どんな顔してこの言葉を言ったのかわからない。
けれど、有無を言わせないその声音に俺は口を閉じて、一言ありがとう、と。



「ねぇ、真知ちゃんは……」

「言うなっ、もう何も言うな」



俺にだってわからない。

夏休みはもう目前に迫っていた。
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