御曹司様はあなたをずっと見ていました。
進一郎さんは、ご両親に振り向くことなく、私の手を引いて部屋を出た。
「あの…進一郎さん…大丈夫なのですか?」
振り向いた進一郎さんは、目を細めて笑みを浮かべた。
私を不安にさせないために、無理に笑顔を作ってくれているのがわかる。
「梨沙、嫌な思いをさせてすまない…大丈夫だ、僕を信じてくれ。」
進一郎さんは、それ以降は何も話さず車に乗り込んだ。
私が助手席に座るのを確認すると、すぐに車を走らせたのだった。
車の中は張り詰めたような重い空気に、息が苦しく感じるほどだった。
車は私の家の前で止まった。
すると、ずっと無言だった進一郎さんが口を開いた。
「梨沙…、もしも…僕が今の会社を辞めさせられたら…どうする?」
進一郎さんの突然の言葉に驚いたが、私は迷うことなくすぐに返事をした。
「私は進一郎さんの仕事や肩書に、結婚を了承した訳ではありません。」
「…梨沙、僕になにもなくなっても…良いのか?」
「もちろんです。…もし進一郎さんが食べられなくなったら、私が養います。任せてください。…でも贅沢は出来ないかも知れませんけどね(笑)」
少しお道化るような笑顔で話すと、進一郎さんの目には涙が溜まっていた。
「…梨沙…頼もしいな…君は…君は本当に強くて優しい…僕は梨沙と出会えて幸せだ…神様なんて信じていなかったけど…梨沙と出会えた偶然には感謝する…梨沙、ありがとう。」