エリート外交官は別れを選んだ私を、赤ちゃんごと溺愛で包む

 その言葉に、腹は決まった。
 もっとも、悩んではいたけれど、私の心は母に会った瞬間に決まっていたのだ。

 だって、〝お母さん〟だったから。

 物心つく前の、朧げな記憶の中で手を繋いでくれた母――〝お母さん〟が、私を迎えに来てくれた。

 ずっと待ってた。

〝お母さん〟が会いに来てくれるのを、ずっと、ずっと、ずっと。


『みんなにいるのに、私にはどうしていないの?』


 幼い頃は、そんな質問をして祖父母を困らせた。もう亡くなった祖母が私を抱きしめてくれたけれど、それでも寂しくてたまらなかった。
『夏乃子』、そう私の名前を呼んでくれる日を待っていた。

 だから、私は頷いたのだ。
 喜ぶ母の背後にある窓、その先で庭にある古いブランコが揺れていた。
 生前、父が作ってくれたらしい。私が産まれてすぐ事故で亡くなってしまった、子煩悩だったという私のお父さんが。


 ……そうして渡英し、八年。
 高校にも大学にも行くことなく、私は二十五才になっていた。
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