原作者の私ですが婚約者は譲っても推しのお義兄様は渡しません!
『ホナミ』とこの世界の文字で書いて、紙を2つ折にしてアビゲイルに渡した。
 自分が作者だと知られるのが躊躇われて、名字を書くのは様子を見て……
などと思ったのに……
 何故か頭の中にその自分の名字が浮かんでこなくて、少し混乱した。


 同時にアビゲイルが差し出した紙には『チカ』と、やはりこちらの文字で書かれていて。


 2人は顔を見合わせたが、口に出すのが怖かった。
 お互いが思う相手と同名の別人の可能性もあった。
 確認したくて気は逸るが、相手の身元を聞くなら先に自分が身元を明かさなくてはいけない。


 ……2人の間に流れる重い沈黙を破ったのは、年上のアビゲイルだった。


「私は……マンガを描いていたの」

「チカ先生ですか! 私は原作の……」

「ホナミちゃん?」


 そして2人は抱きしめ合って泣いた。
 ……あの頃の記憶を、これからの不安を。
 分かち合える人と、やっと再会出来た2人は泣いた。


< 105 / 255 >

この作品をシェア

pagetop