これって政略結婚じゃないんですか? ー彼が指輪をしている理由ー
「あー、ダメだ。やっぱり新しいスカート買いに行こう。あいつの服を身につけてるって思ったらじっとしてられない。パンケーキ食べ終わったら、一緒に洋服見に行くよ」

テーブルの上に、冷めた紅茶と徹也くんが注文したパンケーキが置かれている。
それを眺めながら、私は思っていたことを口にした。

「徹也くんの、その指輪……」

私の声に徹也くんは指輪に視線を落とすと、左手薬指から指輪を外し、私に握らせた。

「これ、晶紀のだよ。覚えてない?」

徹也くんから渡された指輪をマジマジと見つめて、私は声をあげた。

「これ……!!」

失くしたとばかり思っていた、修学旅行中に買ったおもちゃの指輪、それだった。
どうして徹也くんがこれを持ってるの……?

「修学旅行のお土産で、僕に晶紀とお揃いのお守りくれたの覚えてる?」

晴明神社で買ったお守りのことだ。昨日夢を見るまで、すっかり忘れていたことは黙っておこう。私は頷いて、話の続きを促した。

「晶紀が中学三年の夏休み、課題が終わらないって泣きついてきたこと覚えてる?」

それは数多くある私の黒歴史の一つだ。
夏休みの課題で出された英語のワークブックが、夏休み最終日前日に出てきたのだ。
大量のプリントに紛れて、その存在をすっかり忘れていた。

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